こんにちは、nobu2394.comです。
日本の会社員の給料は、なぜなかなか上がらないのでしょうか。
物価が上がっているのだから、給料も上げてほしい。そう思うのは当然です。ただ、私は長年日本の大企業で働き、米国や中国でも仕事をしてきた経験から、以前から引っかかっていることがあります。
日本企業は正社員を長く雇うことを前提にしているからこそ、基本給を上げることに慎重になるのではないか。
一度採用した社員を簡単には解雇できず、将来も人件費を負担する可能性が高い。経営者からすると、ベースアップには慎重にならざるを得ないのではないか、と考えているのです。
一方で、私はこの仕組みを全否定するつもりはありません。安定した雇用と給与は、家族を養い、長期投資を続けてきた私自身にとって大きな支えでした。
しかし、成果にかかわらず正社員の待遇が強く守られる一方、優秀な派遣社員が正社員になりにくい現実にも疑問があります。
今回は私自身の考えを出発点に、法律、日本銀行の研究、OECD、日米欧中の賃金統計を確認しながら、「雇用の安心感を残しつつ、頑張った社員がもっと報われる制度にできないか」を考えてみます。
※この記事は2026年10月25日時点で確認できる公開資料と、筆者個人の過去の勤務経験に基づく考察です。特定の会社の現在の人事制度や個人の勤務評価を示すものではありません。賃金統計、制度上の事実、私の意見は区別して記載します。
この記事で伝えたいこと
- 「解雇しにくい=賃金が上がらない」と断定はできないが、基本給の下げにくさが賃上げを抑制する仕組みには研究上の裏付けがある。
- 日本型の長期雇用には、給与明細に表れない大きな安心感がある。
- 私が求めたいのは、基本給と賞与にもっと成果差をつけ、優秀な非正規社員にも昇格の道を開く改革だ。
日本の正社員は本当に「クビにできない」のか
日本の正社員は簡単には解雇できない。これは私が会社員として長く感じてきたことです。
実際、労働契約法第16条は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇を無効としています。つまり会社の都合だけで自由に解雇できるわけではありません。ただし、法律上、正社員を絶対に解雇できないという意味でもありません。
ここで調べていて意外だったのは、日本の解雇規制が国際的に突出して厳しいわけではないことです。
OECDの2026年の比較では、日本の正規労働者への雇用保護規制の厳しさはOECD平均をわずかに下回ります。欧州には日本より規制の強い国もあります。
ということは、日本企業の特徴は法律だけでは説明できないのでしょう。
新卒を一括採用し、社内で教育し、異動させながら長く雇う。年功的な賃金・昇進の考え方も残る。私は、この長期雇用を前提とした企業文化も、賃金の決め方に強く影響していると考えています。
2019年に私自身が「終身雇用はこれから崩れるのではないか」と考え、その7年後に答え合わせした記事もあります。長期雇用がどれほど残っているかの検証は、こちらに詳しくまとめました。
→ 【7年後検証】トヨタ「終身雇用は難しい」発言から日本はどうなった?
いったん上げた基本給は下げにくい。ここが経営者には重い
私が最も重要だと思っているのは、ボーナスではなく基本給です。
仮に業績が良い年に社員の基本給を大きく引き上げたとしましょう。次の年に業績が悪化しても、その基本給を簡単に元へ戻せるわけではありません。既存社員の賃金を不利益に変更する場合には、労働契約上の制約もあります。
つまり、経営者から見るとベースアップは、その年だけでなく翌年以降も続く支出の増加です。雇用期間が長い会社ほど、その判断を慎重にするのではないでしょうか。
この点について、私の仮説に非常に近い研究がありました。
日本銀行金融研究所の2020年の論文「賃金上昇が抑制されるメカニズム」では、月給を将来引き下げる難しさが、企業に現在の月給引き上げをためらわせる可能性を論じています。
同論文ではボーナスによる調整も検証され、業績が悪化するとボーナスが大きく削減される一方、業績改善時の増額は限定的だったという結果も示されています。
「下げにくいから、上げることにも慎重になる」――この仕組み自体は、単なる私の思いつきではなかったのです。
ただし、ここで論文が直接示しているのは賃金の硬直性と賃上げの関係です。「解雇規制こそが日本の賃金停滞の最大原因だ」と証明したものではありません。そこは混同しないようにしたいと思います。
2026年の日本の給料は、物価上昇に追いついていないのか
最近は春闘で大幅な賃上げが続いています。私自身も、日本の給料が以前より動き始めたことは感じています。
では、実際に物価を差し引いた「実質賃金」はどうでしょうか。
厚生労働省が2026年10月23日に公表した2026年8月分の毎月勤労統計確報では、現金給与総額は前年同月比3.9%増、持家の帰属家賃を除く消費者物価指数で計算した実質賃金は1.6%増でした。
つまり、少なくとも直近のこの月については、「物価上昇に給料が追いついていない」と言い切るのは正しくありません。
一方、OECDの2026年雇用見通しでは、日本の2026年第1四半期の実質時給は前年同期比で1.7%増でも、2021年第1四半期と比べるとまだ0.1%低いとされています。OECD中央値は同じ期間に1.2%上昇しています。
要するに、最近は改善している。しかし、数年前からの物価上昇で失われた購買力を十分に取り戻していないという見方が妥当だと思います。
給料だけでなく、インフレで現金の購買力がどう変わるかについては、別の記事でも考えました。
→ インフレで現金の価値はどうなる?現金だけ持つリスクと「守りの投資」
アメリカ、ヨーロッパ、中国でも実質賃金は必ず上がるわけではない
海外に目を向けると、日本だけが物価上昇に苦しんでいるわけではありません。公的統計で確認できる直近の例をまとめます。
| 国・地域 | 実質賃金の変化 | 対象・期間 |
|---|---|---|
| 日本 | +1.6% | 2026年8月・現金給与総額・前年同月比 |
| 米国 | −0.7% | 2026年9月・民間非農業部門の実質平均時給・前年同月比 |
| EU | +0.5% | 2026年通年・欧州委員会の予測値 |
| 中国・都市部民間企業等 | +2.9% | 2025年・都市部民間事業単位の年平均賃金・前年比 |
| 中国・都市部非民間企業等 | +4.2% | 2025年・都市部非民間事業単位の年平均賃金・前年比 |
※この表は各公的機関が公表する数値を紹介するためのもので、期間・対象労働者・賃金定義・物価指数が異なります。したがって数値の大きさをそのまま比べて、国ごとの賃金上昇率の順位を付けることはできません。中国の統計は都市部の対象事業単位の賃金であり、中国全労働者の平均ではありません。EUの2026年値は実績ではなく予測です。
アメリカですら短期的に実質賃金が下がる局面があります。私は「米国企業なら誰でも毎年どんどん豊かになれる」とは考えていません。
また、日本の賃金の伸び悩みを終身雇用だけで説明することもできないでしょう。生産性の伸び、企業の価格転嫁の難しさ、長年の低インフレ下で形成された賃上げへの慎重さ、転職による賃金競争の弱さ、正規と非正規の待遇差など、複数の要因が絡んでいると考えています。
米国で働いて驚いたのは、社員の入れ替わりの激しさだった
私には、過去に米国と中国で働いた経験があります。
特に印象的だったのは、米国で一緒に働いた現地社員の動き方でした。
私が勤務したのは日系企業でした。会社そのものには日本的な文化も残っていましたが、それでも現地社員は本当によく転職していました。
より良い条件やキャリアを求めて、普通に別の会社へ移っていく。そして新しい人が入社してくる。その繰り返しです。
給料が毎年必ず大きく上がっていた、という話ではありません。私が最も強く感じた違いは、「会社を辞める」という行動への心理的なハードルの低さでした。
中国で働いた経験もありますが、私が見た範囲では米国のほうが人の入れ替わりが激しいと感じました。ただし、これは私が経験した職場での印象であって、国全体の離職率を比較した統計ではありません。
人材が動けば企業間の採用競争が生まれ、能力のある社員は外で自分の価値を試しやすくなります。一方、退職が多すぎれば社内のノウハウは失われ、採用や教育の費用もかかります。
私は、日本もすべて米国型に変わればよいとは思っていません。ただ、同じ会社に長く勤めることが美徳とされやすい日本では、社内の人事制度がいっそう重要になるのではないでしょうか。
日本型雇用の最大のメリットは、給与明細に載らない「安心」
ここまで厳しいことを書きましたが、私は日本型の長期雇用から大きな恩恵を受けてきた一人です。
51歳になった今、子どもの進学や老後のお金について考えると、安定した給与収入があることの価値を強く感じます。
市場が暴落しても、給与が入り続ける。家族の生活費を賄い、長期投資も続けられる。これは給与額だけでは測れない安心感です。
私が資産形成を振り返って「一番効いたのは投資の利回りより入金力だった」と書いたのも、このためです。
→ 資産2.2億円を作った要因|入金力6・投資3・会社制度1【51歳会社員】
OECDの2026年日本経済調査でも、日本の長期雇用、年功的な給与・昇進、新卒一括採用、社内訓練といった特徴が整理されています。
だから私は「終身雇用をすべて壊せ」と言いたいわけではありません。
社員にとっての安定というメリットを残しながら、会社の競争力をどう高めるのか。そこが本当の問題だと思うのです。
しかし、成果が違っても待遇があまり変わらないなら問題だ
私が日本企業で長く働いてきて感じるのは、雇用が安定していることと、頑張った人が十分に報われていることは、必ずしも同じではないという点です。
成果を上げて会社を引っ張る人がいる一方、期待された役割を十分に果たせない人もいます。それ自体はどの国の会社でも起こるでしょう。
問題は、その差が長年の待遇にあまり反映されなければ、頑張る人の意欲まで下げてしまう可能性があることです。
実は私は、約5年間、管理職として延べ70人ほどの部下の評価・査定に関わった経験があります。査定には成果だけでなく、部署内の相対評価、上位評価の人数枠、昇格のタイミングなど、さまざまな事情が入り込みました。
評価する側を経験したからこそ、成果主義を強めれば簡単にすべて解決するとも思いません。でも、「頑張っても報われない」と感じさせる制度を放置するほうが、もっと問題だと私は考えます。
実際の査定で感じた難しさは、こちらの記事に詳しく書いています。
→ 【元査定者が解説】ボーナス査定はどう決まる?5年間・延べ70人を評価して分かったこと
私の提案① 基本給とボーナスの両方に、もっと成果の差をつける
では、どうすればよいのでしょうか。
私がまず実行すべきだと思うのは、社員の成果によって基本給とボーナスの両方に、今より大きな差をつけることです。
必ずしも最初から会社全体の人件費を増やす必要はありません。限られた人件費をどう配分するか、という問題です。
※個人の能力を単純に3分類すべきという意味ではありません。成果に応じた給与配分の考え方を示した例であり、制度導入時には職務・役割、最低保障、公平な評価などの設計が必要です。
年収1,200万円の人がいる一方で400万円の人がいる。これは極端な例ですが、私が考えているのは、それくらい成果や役割の差が報酬に反映され得る仕組みです。
ただし、重要な注意点があります。総額8,000万円のまま配分だけ変えても、社員10人の平均年収は800万円のままです。この改革だけで「日本全体の平均賃金が上がる」とは言えません。
私が期待しているのは、報われる社員が増えることで意欲や生産性が高まり、その結果として将来の給与原資そのものも増える可能性です。これは私の仮説であり、必ず実現するという保証はありません。
また、売上などの数字に表れやすい仕事ばかりが高く評価されてはいけないでしょう。品質問題を未然に防ぐ、若手を育てる、長期的な改善を進めるといった仕事も、正当に評価する必要があります。
私の提案② 派遣社員にも正社員への道を、正社員にも継続的な評価を
もう一つ、私が強く感じている問題があります。それが正社員と派遣社員の間にある壁です。
私はこれまで、優秀な派遣社員の方とも一緒に働いてきました。仕事内容や能力だけを見れば、正社員として十分に活躍できると感じる人もいました。
それでも雇用形態が違うという理由で、得られる待遇や長期的な安心感には差があります。
ならば、頑張って成果を出した派遣社員には、正社員へ進むチャンスをもっと与えてもよいのではないでしょうか。
ただし、会社の正社員枠や人件費には限界があります。正社員を一人も減らさずに登用だけを増やす方法では、企業の人員計画と両立しない場合もあるでしょう。
だから私は、将来的には、正社員という雇用区分を一度手に入れたら無条件に維持できる制度で本当によいのか、という議論まで必要ではないかと思っています。
入社時の学歴や採用区分だけで、その後何十年もの処遇が決まり続ける仕組みから、入社後の努力や成果も反映される仕組みに変える。
これは単に「成果が低い人を切ればよい」という話ではありません。雇用や生活に大きな影響を与えるため、評価基準の透明化、複数年の評価、再教育・配置転換、異議申立て、生活保障などが不可欠だと思います。
そして法律上、現在の正社員を会社が一方的に「派遣社員へ切り替える」ことはできません。派遣労働者は原則として派遣元の会社と雇用関係にあり、労働条件の不利益変更や解雇にも法的な制約があります。
私が問題提起しているのは、現行法でそのような入れ替えをすぐ実行できるという意味ではなく、将来の雇用制度として、正社員登用の入り口と正社員の地位の見直しをセットで議論すべきではないかということです。
もちろん、この考えに反対する人も多いでしょう。だからこそ、実際に導入するなら労使双方が納得できる制度と、働く人の生活を守る仕組みを一緒に考える必要があります。
それでも「良い大学から大企業の正社員へ」という道には価値が残っている
私は今でも、中学・高校時代から勉強し、進学先や就職先の選択肢を広げることには大きな意味があると考えています。
これは学歴だけで人間の価値が決まる、という意味ではありません。
しかし、日本型の長期雇用が大企業を中心に残っている以上、どの会社に正社員として入るかが、その後の長い職業人生に影響することは否定しにくいと思っています。
私自身、過去に技術系の新卒採用リクルーターを担当した経験もあり、企業側が学生をどのように評価するかを見てきました。
→ 【企業側の実体験】リクルーター面談は選考?S〜D評価していた私が本音で解説
2018年には、今よりもっと強い言葉で「良い大学を目指す意味」を書いていました。今も進学先と就職先の重要性を感じていますが、入社後の評価については当時以上に考えるようになりました。
ただし、採用時の評価が大きなアドバンテージになることと、そのアドバンテージを定年まで無条件で保証することは別の話です。
私は、入社前の努力が報われることも、入社後の努力が報われることも、両方大切だと思います。
まとめ|日本型雇用を否定しない。だからこそ、成果主義を強めたい
日本の給料が上がりにくい原因を、解雇規制だけに求めることはできません。
それでも、長期雇用を前提にした仕組みと、一度上げた基本給を下げにくい構造が、企業の賃上げ判断を慎重にさせる可能性はあると考えています。
そして、その仕組みの裏側には、社員と家族の生活を守る大きな安心感があります。私自身、その恩恵を受けてきました。
一方、成果を出しても待遇が変わらず、雇用形態の違いで機会が閉ざされているのであれば、企業は人材の意欲を十分に引き出せないのではないでしょうか。
私がまず望むのは、基本給とボーナスの両方で、成果と役割に応じてもっと明確に差をつけることです。そして優秀な派遣社員が正社員を目指せる道を広げることです。さらに長期的には、正社員という地位そのもののあり方も議論する必要があると思っています。
日本企業の雇用の安心感は残したい。でも、頑張った人がもっと報われる会社にもなってほしい。
長年会社員として働いてきた一人として、これが2026年現在の私の率直な考えです。
そして、働き方を変えるか、それとも会社員を続けるか。51歳になった私自身の判断については、こちらの記事にも書きました。
→ 【51歳・資産2.2億円】それでもFIREしない理由|60歳からの働き方を考え始めた
参考資料・出典
- 厚生労働省「労働契約(契約の締結、労働条件の変更、解雇等)」:労働契約法第16条、労働条件の変更、無期転換ルール。
- 日本銀行金融研究所「賃金上昇が抑制されるメカニズム」(2020年):月給の硬直性とボーナスによる調整。
- OECD「Employment Outlook 2026: Japan」:雇用保護規制と実質賃金。
- OECD「Economic Surveys: Japan 2026」:日本型雇用、年功賃金、労働移動。
- 厚生労働省「毎月勤労統計調査 2026年8月分結果確報」(2026年10月23日公表)。
- 米国労働統計局「Real Earnings, September 2026」。
- 欧州委員会「Employment and Social Developments in Europe 2026」第1章。
- 中国国家統計局「Average Annual Wages of Employees in Urban Units in 2025」。
- 厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」。

